理工学研究科 助教(物質科学部門・物質基礎領域)
卓越研究員事業
原子核物理、時間依存密度汎関数理論
令和元年12月1日 着任
原子核構造、核融合、核分裂、核データ、原子力
原子の中心にある原子核の性質を理論的な方法を用いて研究しています。原子核は原子の10万分の1のサイズと非常に小さい系です。この系は数百程度の核子(中性子と陽子の総称)という粒子で構成されています。一般にこの様な系を有限量子多体系と呼び、量子力学が支配しています。構成粒子数と同数のシュレディンガー方程式またはディラック方程式を同時に解く事は一般的に困難な為、多くの模型が提案されています。私はその理論模型の一つである平均場模型に基づく方法を使って原子核を研究しています。 有限量子多体系の問題とは、平たく言えば物がたくさん集まった時に現れる秩序を理解する事です。原子核には様々な秩序が現れます。例えば、原子核は核子の集まりなので一見液滴の様に理解できる部分があります。同時に核子が独立して運動している様相もあります。さらに凝縮系物理で扱われる超伝導と同じような性質を示す事もあります。原子核には様々な様相があり、これらが複雑に絡み合う為、多様なダイナミクスを生み出します。その中でも原子核を大きく変質させるダイナミクスが社会ではよく知られています。それは核分裂や核融合です。原子力発電、放射線治療などは原子核分裂や核崩壊を利用したものです。ニホニウムと名付けられた人工的に作られた超重元素(陽子数104以上)が話題になりましたが、自然界に存在しない安定な元素を合成する為に、核融合現象が利用されています。<br> 一方で、中性子星合体などの天体現象で生じる元素合成、ニュートリノのマヨラナ性確認など、基礎物理への貢献も期待されています。原子核研究は有限量子多体系を理解するという基礎的な課題がありながら、社会で利用される応用的な側面もある分野です。