現 理工学研究科 教授(人間支援・生産科学部門・生産科学領域)
テニュアトラック普及・定着事業
粘弾性力学、生体計測
[Viscoelasticity, Biometry]
平成26年4月1日 着任
平成31年4月1日 テニュア付与
粘弾性力学、複合材料、アコースティック・エミッション、生体材料、生体計測
[Viscoelasticity, Composite material, Acoustic emission, Biometry]
高分子材料は、粘弾性特性を有しており、構造設計などの際に重要な要因となっております。特に近年多く使用されているCFRPなどの複合材料も、母材は高分子材料であり、粘弾性特性の影響を大きく受けてしまいます。本研究室では、高分子基複合材料の新規作製や、材料のリサイクルのための、新しい機能性材料の創製、そして褥瘡用マットレスの劣化診断、高分子材料の長期耐久性把握などの研究を行っています。<br>また、地震の検出と同じ原理である、Acoustic Emission と呼ばれる音響情報を利用した非破壊検査手法を用いて、生体表面の振動分布を計測しています。これまでに計測されたデータから、震源である心音(心臓の鼓動など)や膝にある軟骨の摩擦音(変形性膝関節症をターゲット)の位置情報を、波形情報や時間情報を用いて算出することが可能になっております。現在は、より簡単に装着、診断できる装置の開発を行っており、将来的には遠隔治療の可能性だけでなく、心臓の動きの可視化・膝関節の異常個所の把握などによる重大な疾患の早期診断に用いることができればと考えております。
変形性関節症(osteoarthritis; OA)は四肢や脊椎の関節軟骨が摩耗して関節周囲に骨棘が出来る病気で、関節痛や手足の麻痺を引き起こします.また原因が「病的な軟骨内骨化」と言われており,治療法は対症療法のみで,根本的治療法が存在していません.さらに骨粗鬆症や関節リウマチよりも多くの高齢者が罹患し、介護保険では要支援の原因疾患の第一位になっている病気で、国内の有病者数は2000 万人以上と推計されています.一度罹患するともとに戻らないのですが,患者はある程度病状が進行し,痛みを感じるようになってからしか病院には行かないため,早期診断方法の開発が求められています. そこで,OA患者の健常者の関節音の違いに着目し,関節音計測装置の開発を行うことで,早期診断装置の開発を行っています.本装置が開発・製品化されれば,たとえば人間ドックの項目の一つとして取り入れることで,早期発見が可能であると考えています. 左図に示すように,関節角度と関節音計測装置を取り付け,立ち上がり動作時などで発生する関節音を計測しています.また,計測された関節音を,時間―周波数解析を行うことで,どの膝角度でどのような関節音が発生したかを把握することができます. 現在は,星城大学・首都大学東京と共同で研究を行い,多くの年代・疾患レベルの方の関節音を計測し,データベースの作成を行っています.
皮膚は,衝撃,熱,紫外線,化学物質などの外部刺激から生体内部を保護する役割を持つ臓器です.その皮膚の中でも,真皮と呼ばれる組織は,線維性基質と,その産生細胞に大別され,基質の大部分はコラーゲン繊維とエラスチン繊維で構成されています.これらの細胞外マトリックスrの再生は,創傷治療における組織再構成にとって極めて重要です. そこで,創傷治癒過程にあるヘアレスラット背部皮膚の力学的特性(引張特性・粘弾性特性)を調べることを目的としています. 本研究は,近畿大学・埼玉大学分子生物学科と共同で研究を行います.
現在航空・宇宙・自動車産業で盛んに開発されている,熱可塑性樹脂(高温で溶けるプラスチック)を用いた炭素繊維強化複合材料についても,研究を行っています.複合材料は高分子材料と繊維でできていることから,高分子材料特有の粘弾性挙動が発生します.特に疲労環境下においては,粘弾性挙動のみならず,損傷蓄積挙動も発生します.本研究室では,粘弾性特性を動的粘弾性試験器で,損傷蓄積過程をアコースティック・エミッション法を用いて計測し,解析することで,疲労挙動と粘弾性特性の関係を明らかにします. 左図は,一方向性炭素繊維強化複合材料の引張試験中結果および試験中に発生したAEです.試験開始直後にはチャックの食い込みによる損傷が発生してしまっていますが,試験前半では樹脂割れなどの音だと思われる,比較的低周波数領域のAEが発生しており,試験後半では,繊維破断とみられる高周波領域のAEが多数発生していることがわかります.
高分子材料は長時間放置しておくと収縮します.この現象をフィジカルエージング現象と言います.これは製品設計上きわめて重要でありますが,ほとんど考慮されていないのが現状です. これまでに,様々な研究者がフィジカルエージング現象と粘弾性特性の関係を実験的に明らかにしておりますが,この現象は分子配置のわずかな変化により発生する現象であるため,シミュレーションを行う例はありません. 本研究では,フィジカルエージング現象を分子動力学シミュレーションを用いて再現することを目的としております.また,CFRP同士の接着状態に関するシミュレーションも今後行う予定です.それ以外にも,様々な現象を分子動力学シミュレーションによって再現していきたいと思います.